あなたは「怖いもの見たさ」で覗き込んだ世界はないか?
危険な場所が気になる。近づいてはいけないとわかっていながら、目が向いてしまう。人間には不思議と、暗い世界に引き寄せられる本能がある。
クリミナルマインドを見ていると、ふとこの感覚を思い出す瞬間がある。
FBI行動分析課(BAU)のプロファイラーたちが、凶悪犯罪者の心理に潜り込んでいくたびに
——あ、これは他人事じゃないな、と。
特に、このドラマに繰り返し登場する格言が頭から離れない。
「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを見ている」 ——フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』
クリミナルマインドでこの格言が使われる場面
この言葉はシーズン1の第1話から登場し、シーズン9第14話でも再び引用されている。シーズンをまたいで繰り返されるほど、このドラマのテーマの核心にある格言だ。
原文は英語で “And if you gaze long into an abyss, the abyss also gazes into you.”——ニーチェが1886年に書いた『善悪の彼岸』の一節だ。
一般的な解釈はこうだ。「悪や暗闇を長く見つめていると、いつの間にか自分もそちらに染まっていく」。
プロファイラーという職業に、これ以上ぴったりな言葉はない。
でも私は、もう少し違う読み方をしている。
元バンドマンが実体験で理解したこと
メタルバンドをしていた頃、アンダーグラウンドな世界が身近にあった。
逮捕される人間が身近にいた世界観。
違法なものを押し入れで育てていた人間、有名フェスに出るほどのアーティストの部屋で煙る光景、それらを実際に見てきた。当時の自分はそれを「リアルな世界を知っている」くらいの気持ちで眺めていた。好奇心で、面白半分で、「自分は関係ない」という根拠のない自信で。
でも今ならわかる。あのとき、向こうもこちらを見ていた。
安易な気持ちで暗い世界を覗きにいくとき
——その瞬間、向こうはもうこちらの隙を探している。
引き込む側は、引き込まれる側よりずっと慣れているから。値踏みして、餌食になりそうな人間を選んでいる。
「覗いているのは自分だ」と思っていたが、実際には「覗かれていたのは自分だった」。
プロファイラーたちも同じ構造で蝕まれていく
クリミナルマインドのBAUチームを見ていると、この構造がそのまま描かれていることに気づく。
シーズンを重ねるほど、メンバーたちは少しずつ変わっていく。優秀であればあるほど深く犯人の心理に潜れる。でも深く潜れば潜るほど、向こうの世界に侵食されていく。それはドラマの中で、静かに、しかし確実に積み上がっていく。
プロとして訓練を受けた人間でさえそうなる。ならば、好奇心だけで覗きにいく素人はどうなるか
——この格言は、そういう問いかけでもあると思っている。
好奇心は大切。でも覗き方には注意が必要
怖いもの見たさは、人間として自然な感覚だ。否定するつもりはない。知らない世界を知りたいという欲求は、時に人を成長させる。
ただ、覗く側には覚悟が必要だ。向こうはこちらを見ている。値踏みしている。その前提を忘れたとき、人は深みにはまる。
クリミナルマインドがこの格言を何度も使う理由は、きっとそこにある。
プロファイラーという職業の本質であり、同時に、私たち視聴者への静かな警告でもあるのかもしれない。